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沖田が提灯を顔の高さまで持ち上げた。
昨夜、道祖神だと思ったのは小さな地蔵だったなと頭の片隅で思った瞬間、鯉口を切る音が聞こえた。
反射的に沖田が振り返ると、軽い足音が駆け寄ってくる。
「誰です?!」
提灯を差し出して、もう片方の手は腰の鞘に触れる。いつでも柄を握れるように左足を引いた沖田の目の前を小柄な人影が横切った。
「たぁっ!!」
暗闇の中から沖田に向かって振り下ろされるはずだった刀は、その人影が抜いた刀に打ち払われる。小柄で総髪、縦縞の着物に袴姿の少年が、自分よりも頭半分、背の高い男相手に刀を構えていた。
その姿からもわかるように、一打が軽いのだろう。続けて繰り出してはいるが、すべて相手に受けられている。
「小僧!邪魔だ!どけっ」
「どきません!」
大柄の男の怒声に言い返した声を聞いて、沖田は一瞬ですべてを理解した気がした。
男に向かって提灯を投げつけると、一瞬、それを打ち払うために隙ができた。
左手で小柄な少年の襟首を掴むと、力づくで後ろに下がらせる。
「あなたは下がっていなさい!」
昨日の男もそうだったが、大柄な男は、その体格を生かして上段からの打ち込みが得意らしい。
それを受けていた少年は、おそらくほとんど実戦の経験がないのだろう。腕はなかなかとみたが、上半身に打ち込みが集中しているところから、もっぱら道場でお行儀のいい稽古が多かったように見える。
「さて。今度は相手が違いますよ?」
少年とは違う。
鯉口を切った沖田の顔に笑みが浮かんだ。
羽織の組紐を跳ね上げて、相手の脇腹から肩に向けて斬り上げる。身を捻ってかわす相手に返す刀の峰で肩口を打った。
がくっと膝をついた相手が刀を杖代わりにして、かろうじて倒れこまないようにしたところをもう一度柄で殴りつける。
「……あ。なんだ。斬らないんだ」
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