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沖田を部屋に待たせておいて、薫は二間あるもう一部屋に入る。腰に差していた刀を押入れに仕舞うと、台所で湯を沸かした。
茶を入れて戻ると、まっすぐな背が薫の目に入る。
「お待たせしました。どうぞ」
「ああ、すみません。あなたも座ってください」
「はい」
向かい合う形で茶を置いた薫が腰を下ろす。座る沖田の右脇に置かれた刀は、先日鞠屋で見たものと同じに見えた。
「さて……」
「はい」
「先日は鞠屋の娘さんと思いましたが」
鞠屋の娘と名乗った薫が今は男の姿で沖田の前に座る。
刀を握ることが出来るのは武士だけだ。
「鞠屋の薫は女子姿ではありますが、薫は本当に私の名です。私が今までについた嘘は、“娘”と名乗ったことのみ。父の名は訳あって明かせませんが、れっきとした武家です。母も、元は武家の娘でした」
「名はなんと?」
仮初めの姿が鞠屋の薫なら、本当の名があるはずだ、と問われて躊躇うかと思っていたが、覚悟はとうに決めていた。
「道院薫と申します。剣は、一刀流を学びました」
「なるほど。確かに腕はそこそこのようですね」
そこそこ。
力不足はわかっていても、そのいわれ様にぎゅっと膝の上で拳を握る。
京に来て、稽古はろくに出来ていないが、江戸にいた頃は道場でも上位に食い込む腕前だった。
ただ、それを顔に出すほど幼くはないつもりなのだが沖田には、わかりやすかったようだ。
茶に手を伸ばした沖田は、その幼さに苦笑いを浮かべながら、どうしたものかと思っていた。新選組の監察方の調べは、甘いものではない。
彼らが調べてわからなかったと言うことも問題だが、どういう経緯かはわからないが、会津藩からわざわざ放っておくようにと横槍が入ったことも気になる。
驚くべきことだが、普段の関り様とは違って、翌日には土方宛に連絡が来たほどに早く知ったわけだ。
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