【2】招かれざる客

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尾上慎一郎は白鳳大学の教員だ。 万年助教授と言われ続けてかなりの年月が経つ彼はもう四十路。一般的に、君は出来る子だと言われ続けた子供はいつまで経っても成長できないと相場が決まっている。 同期達は人並みに昇進し、家庭を持ち、自分達の人生を生きているのに、慎一郎のところだけ時が止まったかのように停滞していた。 人は、慎一郎を腰近くまで伸ばした髪から覚える。装いはその人を写す鏡だ。トレードマークの長髪は明確なポリシーがあって伸ばしたのではなく、横着したらズルズルと、気がついたら長くなった結果の産物だ。まるで伸びきったラーメンみたいだな、と彼の悪友は口を揃えて言ったものだ。 彼の両親は長年不倫関係を続け、それぞれの家庭にけじめを付けないまま世を去った。それは彼の人生に色濃く影を落とした。 「少しは同情するが、自分の産まれを拗ねているだけだろう!」と悪友共は容赦がない。 その通りだからいいんだ、と答え続けた。 正直、どうでもよかったのだ。自分の人生にも他人にも、身なりにだって責任を持たず生きてきた。 これからもそうやって年を重ねて老いていく。 それでいいんだ。 仕事は与えられた課題は過不足なくこなしていた。 自分一人であれば充分食べていけるだけの収入もあった。 社会へ貢献する最低限の務めは果たしている。自分は世間に何の期待もしていない。 だから放っておいてくれないか。 思春期にこじらせたものをそのままにして育った大人、いや、中年になってしまったのが慎一郎だった。
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