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幸い、彼は自分の仕事を愛していた。とりわけ若い学生達と接するのが好きだった。
指導教官の立場を越えて、まるで仲間のように彼らと交われる自分が善人になった気がした。情けないことに、学生達に救われていたのだ。
そして別の救い主が彼の前に現れる。
女だ。
彼と因縁浅からぬ少女、水流添秋良(つるぞえ あきら)は、慎一郎がモラトリアム生活に入るとば口に彼と出会った。
御年、何と4歳。
まだまだ幼かった彼女は、ひよこが初めて見たものを親と認識するように、慎一郎を唯一の男と見定めた。彼がふわふわとまとまりがなかった頃から見続け、慕い続けた。延べ年数にして20年以上も。
幼女と青年が、恋愛関係に入ればとんでもない犯罪になるが、それに20年を加算すると、年の差は変えられないが収まりの良い男と女になる。
とはいえ、ひとりの人を思い続ける年月としては20年はとても長く重い。男としては、勘弁して欲しい類の執着だ、重すぎてうっとしいところだが、不思議だった、秋良だけは許せたのだ。
出会った頃は幼稚園児としても、20年を加算すれば立派な大人の女性になる。
秋良は男から見ると理想的な恋人に成長していた。
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