【2】招かれざる客

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善良でしとやかで、表裏がなかった。 すくすくと育つ若木のようにまっすぐに彼を見つめ、愛した。 確たる核がなく、自分らしさを持たなかった慎一郎を導くように彼に関わり、側にいることを望む彼女を、彼は突き放した。 僕はだめだよ。君を幸せにできない。 ふさわしい男がきっとどこかにいる。 君を待っている。 冷たくあしらって、遠ざけなければと思ったのだが、し切れなかった。 建前と本音は別だった。 他の男に渡せるのか? いやだ。 秋良は僕の女だ。 素直になろう。 誰にも渡さない。 そう思ってしまったのだから仕方ない。 慎一郎は長い髪を切り、過去の自分を捨てるように惜しげもなく、目に見える重しを捨てた。そして初めて、秋良にひとりの男として向き合った。 君が好きだ。愛していると告げた。 彼女は歓喜の涙を浮かべて頷き、その姿は彼の胸を熱くした。 時を同じくして、万年助教授と言われ続けた彼も、やっと昇進できた。 動き出す時は何もかもが一気に押し寄せてくる。この流れに逆らわず、乗ってしまえばいい。 永遠のモラトリアムである慎一郎の、大海を漂うマンボウのような生活は、終止符を打ったのだった。 「――つまらん」 慎一郎の背中へ、石つぶてを放つように丸めたプリントをぼこんと投げつけたのは、慎一郎の同期で、悪友の一人・宗像一郎だった。
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