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今朝も朝から憂鬱な雲が空一面に垂れこめていた。
天気予報では午後から雨が降るという。
春の長雨というのか……スッキリしない天気ももう五日目。いい加減着る服がなくなった僕はコインランドリーへ行くことにした。
橋野コインランドリー。近所の小さくて古いコインランドリーだ。
駐車場へ車を停める。フロントガラスから見た看板の文字が一箇所だけチカチカとじれったくなるようなゆっくりとした間隔で点滅していた。
薄暗い店内。
入口と奥の長細い蛍光灯はぼんやりとしか灯っていない。もうすぐ五月だというのに底冷えする寒さだ。
雨続きなわりにコインランドリーに人影はなかった。
僕はなんとなくホッとしながら溜まった洗濯物を入れ、硬貨を投入。入口にある、ホコリをかぶった本棚から古いコミックを手にとった。
彼女と別れて三週間が過ぎようとしていた。大恋愛だった。旦那と別れると言っていた。なのに。
燃え上がるような恋は冷めるのも早いのか……一年経過した頃から彼女はいろいろ言い訳するようになった。「子供がまだ小さいから」「お義母さんが病気になったの」僕は彼女を愛していたし、彼女のためなら何年でも待つ覚悟でいた。
でも彼女は違っていた。
ある日見てしまったのだ。彼女が他の男の車に乗り込むのを。楽しそうに笑っている彼女はとても美しかった。ずっと見ているとまた車が戻ってきた。情事のあとなのだろう。二人は車の中で何度もキスをしていた。
「はぁ……」
もし彼女との出会いがもっと早ければ、彼女と僕は結婚できたのに。
十年前に戻れるのなら、その時の僕に言いたい。運命の女性がいるんだと。高校時代からの腐れ縁女と付き合ってる場合じゃない。そいつは僕に隠れて僕の親友とも付き合ってる女だ。それも教えてやらないと。
そして彼女を探して結婚を阻止するんだ。運命の相手なんだ。出会うことさえできればきっと分かるはず。彼女の名前も顔も教える。昔住んでいたところも。勤めていた会社も。だからそんなに難しいことじゃない。
そう説得できるのに。
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