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「また洗濯物がいれっぱなしだ」
「またぁ? 最近多くない?」
オーナー夫婦はやれやれとため息を零し、テーブルに置きっ放しのカゴへ乾いた洗濯物を入れていく。ジーンズ二本にTシャツが五枚、ボクサーパンツ五枚、足首までの靴下も数足。スウェット上下。タオルやバスタオルも数枚。どっさり入ったカゴをもう一度テーブルへ戻す。
今時の若者は衣装持ちが多いのか。それとも忘れっぽいのか。せっかくお金を払って洗って乾かした洗濯物を取りに来ない神経が分からない。一枚下着を取り忘れたとか、靴下の片方が落ちていた。というのならよくある話だ。店内には忘れ物置き場がある。だいたいは下着や靴下だ。取りにくる客は翌日には取りにくる。
なのに……
忘れ物置き場にはカゴが三つ並んでいた。
どれもいっぱいに洗濯物が詰まっている。決まりとして『十日経過した忘れ物は処分いたします』と張り紙はしてあるが、量が量がだけに捨てるのも偲びない。
「……仕方ない。スペースが無いし、古いのから家へ持っていくか」
「いいけど、家にあるのはどうすんの?」
「うーん。そっちから処分するしかないな。今度の資源回収にでも出すか」
「そうね」
二人は外の看板の文字がちゃんと点灯しているのを確認して、店内の清掃を始めた。コインランドリーは明るく清潔感が命だ。妻が洗濯機のフィルターのホコリを取り除きながら夫へ言った。
「蛍光灯は?」
「大丈夫だよ。先週替えたばかりだ」
清掃が終わり、オーナー夫婦はそれぞれずっしり重い洗濯カゴを車へ積んだ。夫婦の車が駐車場から出て行く。コインランドリーはまた無人になった。
夫婦の車が去った後、点灯していた看板がジジーーッと音を立て一箇所が点滅を始める。
天気予報通りポツポツと雨が降り出してきた。
しとしと降り続ける雨。
一台の車が駐車場へ入ってくる。
またひとり、憂鬱な表情の客がコインランドリーへ。
完
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