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「楓に手を出して、ただで済むと思うなよ、雌豚」
「む」
その一方的な物言いに。
翼の少女は不機嫌そうに眉をひそめる。
「楓って人がそこで氷漬けになっている女の子のことを言ってるなら、先に手を出してきたのは彼女のほうよ。おそらくは勘違いでね」
「事情なんて知ったことじゃないわ。大事なのは一つ。あたしの楓がっ、貴様の手で氷漬けにされたってことよっっっ!!!!」
ブァッ!! と九龍蜜花の全身が異様な光に包まれる。魔法使いの極致、効率的に力を集める秘技が発動する。
「模倣術式───モード『モルガン』」
紡がれる単語は始まりの言。
核兵器の時代を終わらせた始まりの魔女が最後の一年に名乗っていた名前。黙示録によると世界中の女にはモルガン=ル=フェイの魂の欠片が吸着しており、そのお陰で女たちは魔法を使えるとされている。
そして、魂の欠片はモルガン=ル=フェイの遺伝子構造に近いほど効率的に吸着できる。そう、模倣術式とは遺伝子構造を好き勝手弄ることができる特異な治癒魔法(高度すぎるし、回復速度などは普通の治癒魔法と変わらないので、九龍蜜花や保険医みたいな少数しか会得していない魔法)によってモルガン=ル=フェイの遺伝子構造を模倣し、その分だけ魂の欠片を多く吸着し、比例して強大な力を手にしているのだ。
「軍勢よ」
その言が『数の差』を広げる。
高校のグラウンドにある土が脈打ち、うねり、捻り、そして無数の軍勢となる。
数メートルから数十メートルの異形たち。
核兵器さえ耐えることができるなんていうこの時代のぶっ飛び具合の象徴とも言える異形たちが戦において勝敗を分ける要因たる『数』を補強する。
「仕方ないですね。まずはあれを片付けるとしましょうか」
「幻水だけでは飽き足らず、蜜花にまで手を出すつもり?」
「え?」
バギィィィッッッ!!!! という轟音。
その轟音は氷漬けにされた姫川楓がその華奢な両手で自身を縛る氷を破砕した音であった。
キラキラと氷の粒が日光を反射する。そんな光の乱反射の中心で純白の少女はゴギッと右拳を握りしめていた。
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