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「…………、」
姫川楓は何とかなった。
九龍蜜花だけでも何とかできるはずだ。
しかし。
彼女たちを同時に相手取るとなると勝てはするかもしれないが、最悪殺して……。
「一応言うけど、すべて誤解ですよ?」
「何が? 現に幻水はお前にやられ───」
「ふわああ……。ん? なんだ、お前さんらもう来てたのか。だったら起こしてくれりゃあ良かったのに」
それは青のマントを羽織った少女の声だった。
東雲幻水。重力を操る魔法使いにして、『玄武』を統べる女王である。
というか、あれほどの戦闘の中で呑気に眠っていられるとは、ある意味大物かもしれない。
「幻水っ」
「おっと、なんだどうしたなんで抱きついて……ごぶばあ!? ちょ、力強、潰れえ……っ!?」
「はいはい無意識だろうけど魔法で強化された楓の抱きつき食らったら真っ赤な血袋みたく破裂するでしょ」
ぐいっと姫川楓の首根っこを掴み、幻水から引き剥がす九龍蜜花。軽々しく行ってはいるが、姫川楓相手にこれを実現するには相応の『力』が必要なはずだ。
「幻水大丈夫っ? あの翼の人に虐められて怪我してない!?」
「あぁ? なんの話だ?」
「え?」
「お前さんらが遅いから寝てただけだが……つーか、お前さん俺様がそこの翼なんか生やしたファンタジー脳な女にやられたとでも思ってるのか!? 俺様を誰だと思ってやがる!?」
「あれ? 違う、の……???」
「俺様はいずれ統一政府をぶっ潰す女王だぞ。その俺様に敗北などあり得ない!!」
「東城大和たち相手に普通に負けていたけどね」
「うるせえっ。異なる魔力を吸収する禁忌を犯し、魔法具現機能が破壊されるような反動を受けないようマントの『仕掛け』は調整してある。くく、今度やり合うことがあれば、俺様が勝つ!!」
「なーんか敗北フラグビンビンね、幻水」
「あァッ!? ぶっ潰すぞ、蜜花ァ!!」
ズズ……ッ!! と空間が震えているのは東雲幻水の重力操作か。見れば九龍蜜花の指先に荷電粒子砲とは違った方式のビームの光が灯っているが、この程度の『じゃれ合い』はいつものことなので放っておくこととして。
姫川楓はこちらを油断することなく見据えている翼の少女へ視線を向ける。己が心のままに行動に移す。
「ごめんなさい」
ぺこり、と頭を下げる。
悪いことをしたならば、謝るのは当然のことだろう。
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