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「なあ、大和。もう一度聞くけど、ここは魔法が存在する『地球』なんだよな?」
「ああ」
「百年ほど前に最初の魔法使いが現れた。彼女の死後に特殊な手術による魔法覚醒方式が発見された。そして、その方式は女にしか効果を示さなかった。核兵器さえも封殺する魔法が女の手に渡ったから、この時代は極端な女尊男卑に染まりきっている」
「ああ」
「……嘘だろ。街並みを見た時は戻ってきたかと思ったけど、これ、もしかしなくても、また別の世界に飛ばされたのか……?」
「…………、」
例えば、麻薬。脳をぶっ壊す薬物は現実と遜色ない幻覚を生み出す。
例えば、精神的なダメージ。幼子に多いものだが、許容範囲以上の辛い『現実』を目撃した時、人は無意識的にその記憶を書き換える。
例えば、錯覚。同じ長さの線に見えるのに、実はまったく違う(トリックアートなど)ってヤツは脳が目の前の現実を錯覚するため起こる。
『現実』を誤魔化す原因はいくらだって存在する。だから、まあ、魔法使いに人権さえ奪われ、好き勝手される『現実』に耐え切れず、訳わかんねえ戯言を吐いたって不思議じゃねえ。こんなのは弱さでも何でもない。普通の人間の、平常な反応だ。
見た感じ三十か四十のおっさんだ。言うなれば、その年までこんな時代を生き抜いた猛者なんだ。
はっきり言って俺にどうこうできる問題じゃねえが、だからって変人だの狂人だのと切り捨てるわけにもいかねえよなあ。
せめて専門家の所まで連れていかねえと。
「大和、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「あん?」
「この世界に神様はいるか?」
「…………。おっさん」
ぽん、と俺はごちゃごちゃと色んなもん装備したおっさんの肩に手を置く。一言一句、丁寧に言い聞かせる。
「これまで本当よく頑張ったな。もういいんだ、ゆっくり休んでくれ、な?」
「???」
可哀想に。
この世界にゃ自称女神様しかいねえよ。
都合良く全知全能で、都合良く弱者に手を差し伸べてくれて、都合良くこっちの味方をしてくれる絶対強者がいるものか。
強い奴は自分のために力を使う。
弱い奴は強者に搾取されるのみ。
弱肉強食ってのは世の心理なんだぜ?
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