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俺は適当にズボンを用意して、おっさんに着替えるよう差し出して、一度家の外に出ていた。
玄関の目の前、二階部分の手すりに寄りかかる。
「さて。精神病患者って普通に119でいいのか?」
敗者のなれの果て。
魔法使いの猛威に耐え切れなかった結果。
……統一政府の重鎮になれるほどの女を懐柔できなければ、遅かれ早かれ俺もああなる。辛い現実に押し潰される。
「あれは敗北後の俺だ。目的を達することができず、魔法使いどもに『遊ばれる』俺の姿だ」
今のうちに絶大な権力を手にできるほどの女を懐柔する、つまり俺に惚れ込ませる。
それが俺がこの時代を生き抜くために見出した唯一の救いだ。
幸か不幸か、俺の顔はいい。客観的に見たってそこらの連中よりはずっとな。まあ、こんなの女同士の結婚どころか(魔法によって)子供を作ることさえできる時代にゃほとんど意味をなさねえがな。普通に流れに身を任せていれば、怪物どものステータスの一つにされる。つまり観賞用の肉人形だな。
だがよ、何事にも例外がある。
昔にゃ金持ちのご令嬢が年がら年中遊んでいる駄目男に惚れ込んで、貢ぎまくったって話がある。『恋愛感情』ってのはそれだけ人を盲目にさせる。
つまり、つまりだ。
顔だろうが話術だろうが何だって使って、俺に尽くしたいと思える『恋愛感情』を誘発できれば、都合の良い防衛装置が作れるはずなんだ。
俗に言うヒモ。
力がねえから憎たらしい魔法使いに守ってもらおうという、虫酸が走る暴論。
それでも、これしかねえんだ。
魔法が使えない身で『安全』を確保するには、憎たらしい魔法使いを利用するしかねえんだよ。
「やっぱこの世界クソだわ」
ぼやき、ギィッと軋む手すりに体重をかける。
こんな時でも空は憎たらしいほどの青空だった。
そして。
カツン、という足音が至近より響く。
「……っ!?」
気配はなかったはずだ。
なのに、数十センチという近距離に彼女は立っていた。
研究員が着てそうな白衣。
鮮やかな金髪に碧眼。
そして、隠れようもないほどに豊満なおっぱい。
つまり魔法使い。
くそっ、まさか俺に気づかれず至近まで近づいたのは魔法の効果か!?
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