443人が本棚に入れています
本棚に追加
「こっちで買い直す予定だし、向こうは家具付きのマンションだったから碌な荷物はない。手続きの方が時間食った」
「ふうん」
数分もしないで、エメラルドマウンテンの甘い豆の香りが漂ってくる。
甘みが強いこの珈琲が一番好きかもしれない。
「昨日も思ったが、今日もネイルが綺麗だ」
素直な感想に思わず目をパチパチしてしまった。
彼がこんなに素直に言ってくれるのは初めてかもしれない。
だったら私も素直にならないと。
からからに喉の中が乾いていく中、指先を撫でながら言う。
「慶斗に会うと思ったら、気合い入っちゃった」
そう言っておきながらも、口から心臓が飛び出しそうなほど身体が熱い。
動揺し過ぎている。
「もう、どっか行かないの?」
珈琲が運ばれてきたので会釈したけれど、震えて上手に珈琲が持てない。
「いかない。こっちで新人に指導する立場になる。今度は俺が送り出す番だから」
「へえ」
「もうどこにも行かないし。離れるつもりもない」
最初のコメントを投稿しよう!