非通知メール

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非通知メール

 携帯に妙なメールが入っていた。 『明日の朝はバスに乗らず、別の方法で通勤して下さい』  それだけが書かれた非通知のメール。  私がバス通勤なのは、夫はむろん、会社の人間も皆知っていることだ。だからといって、わざわざこんなメールを送ってくる相手に心当たりはない。  すぐに夫に見せたが、無差別のいたずらだろうと言われた。  私もおそらくはいたずらだと思う。でももしかしたら、何かとんでもない事件に巻き込まれているのかもしれない。  考えすぎとは思ったけれど、どうしても気になって、翌朝の通勤はメールに従い、バスではなく、少々手間になるが電車を使うことにした。  その日の昼休憩の時、マイカー通勤の同僚に、今朝目撃した事故の話をされた。  信号無視の車が右折待ちのバスに突っ込んだという話を、私は愕然たる気持ちで聞いた。  同僚が目撃した事故の被害バスは、いつも私が乗っているバスだったのだ。  あれ以来、時折非通知のメールが届くようになった。 『夕飯は、スーパーのお惣菜を買わず、家にある物で作って下さい』  そんなメールが届いた翌日には、いつも利用しているスーパーのお惣菜を食べて食中毒を起こしたという話題が溢れ、 『今日の戸締りは早めにして下さい』  こんなメールが届いたら、翌日は、二軒隣の家に泥棒が入ったという話で近所中が持ちきりになった。  いつもいつも、非通知のそのメールは、未来が見えているかのように先回りの警告をくれる。私を助け続けてくれる。  そんな生活が数か月続いたある日、また一通の非通知メールが届いた。 『今まで、きちんとお願いを聞いてくれてありがとう。おかげで無事に外に出られそうです。もう少ししたら会いましょう』  文面を目にした瞬間は驚いたが、何故か深い納得が胸に広がった。  メールを送ってくれていたのはあなただったの?  自分とお母さんを一生懸命守ってくれたんだね。  こちらこそ、色んなことを教えてくれてありがとう。  そう心の中でつぶやくと、私は、もう数日で出産予定の大きなおなかを撫でた。 非通知メール…完
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