2477人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼーっと見とれてたら、そんな言葉を冷たくぶつけられた。
「お隣に引っ越してきた人――ですよね?」
俺の名前を知ってるなんて。
でも自分にはこんな強面の知り合いなんて居ない。
首を傾げる俺に、彼は意地悪そうに唇の端を上げて笑うと、長い手を伸ばしてきた。
その手が、俺の顎を掴むと左右に振られ、値踏みされているお刺身のような扱いを受ける。
「俺の事を忘れてるなんて酷いじゃないですか。俺は忘れたことなんてないのに」
「ひっ 誰、知らないっです」
思わず突き飛ばし、靴べらを持って威嚇する。
すると彼の手に持っている紙袋を見て、思わず武器である靴べらを落としてしまった。
「それは老舗和菓子店『惷月堂』の紙袋!」
「そうだよ。氷雨が好きなどら焼きと、引っ越しの挨拶に紅白まんじゅうだ」
引っ越しに紅白まんじゅうだなんて聞いたことが無かったけれど、俺がリビングに用意していたスーパーで売っているお煎餅とは比べられないほど高級な和菓子だ。
でも俺の好物まで知っているなんて。
最初のコメントを投稿しよう!