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つい3カ月前までは、あの檻の中から出る必要も無かったし、出たいとは思わなかった。
けれど、ネオンをバッグに駅まで走りながら、――意外にも綺麗な世界に出かけるのが億劫じゃなくなっていた。
「氷雨さん、こっちです」
「え、俺より早い」
「元々、仕事が終わって電車に乗ってから電話してたので」
そう言いつつも、スーツのネクタイを緩める彼の仕草に、ドキドキする。
無駄に色気を出さないでほしい。
「それより、お腹ぺこぺこです。氷雨さんの育てた人参が入ったカレーが食べたい」
「じゃあ、帰りましょうか。昨日、子ども達と人参は収穫してので」
にっこりとほほ笑むと、喜一くんはちょっとだけ口を尖らせる。
「苛めるつもりで言ったのに」
「俺の恋人は、俺を苛めたりしませんよ」
優しく釘を打つと、バツが悪そうに頭を掻きあげた。
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