一、虎が雨(とらがあめ)

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「もうすぐ炊き込みご飯ができます。お味噌汁は小分けにして火は使わずに電子レンジで温めて下さい。フライパンは隠しましたので、くれぐれも火を使わないようにお願い致します」 「大丈夫ですって。もうホットケーキで天井を焦がしたりしません」 「お願いですから、筆以上の重いモノは持たずに過ごしてください。お風呂掃除も泡がついたままで脱衣所に戻りますと、滑ります故に」 橋本さんは水曜の今日から、次の書道教室がある土曜までの三日間だけ、甥っ子の結婚式に沖縄に帰省する。 日曜には戻って家の状態をチェックすると言われたけれど、三日離れるだけで過保護すぎる。 確かに、フライパンでホットケーキに発火させて天井までキャンプファイヤーしたり、着物のままお風呂掃除して裾を踏みつけお湯に飛び込んだり、雑草を抜こうとして持っていた桑で壁を割ったりした。 けれど書道以外、何もできないまま30歳を迎えてしまうのは、大人として如何なものか。 「その顔は、分かってませんね。それでは甥っ子の結婚式は欠席を」 「わーわー。約束します。筆より重いモノは持ちません!」
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