一、虎が雨(とらがあめ)

7/25
前へ
/293ページ
次へ
子供の様な情けない約束をとりつけて、何とか橋本さんに納得してもらえた。 仕方がない。実際に筆以外のものを触ると、橋本さんが大変なんだから。 自分にそう言い聞かせると子供たちが慰めてくれた。 「……あ、雨だ」 ぽつぽつと雨が降り出すと、子供たちと橋本さんは荷物を纏めて飛び出していく。 分かってはいるけれど、一人になるのは少し寂しい。 皆に手を振るのと、隣の家のトラックが発車するのはほぼ一緒だった。 隣の家も荷運びを雨が降る前になんとか終わらせたらしい。 豪華な洋風の家だから、数メートルしか離れていないのに遠くに感じられた。 「挨拶に来るかもしれないから、お煎餅でも用意しとこうかな」 丁度皆が帰って人恋しくなった俺は、いそいそとおせんべいの準備に家へと戻った。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2477人が本棚に入れています
本棚に追加