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「結婚する前は、あなたを使おうと思っていたのだけれど……
私の想定よりも私は、あなたを愛してしまったみたいだから。
だから、これを不倫だというならば、私に愛されてしまったあなたにも原因があるのよ?」
「……え?」
彼女が呟く向こうで、つけっ放しになっていたテレビが星座占いからニュースに切り替わった。
若い男の死体が遺棄されていたというニュース。
被害者の面立ちは、デジカメの中に納められた不倫相手と瓜二つだった。
「人工知能を作るのって、やっぱり難しいわね。
プログラムで対応できない穴を、プログラムの中に逆インポートした人間で補おうと思っていたのだけれど……
システムが悪いのか検体が悪いのか、穴は埋まらないし検体はおじゃんになってしまうし、そもそも検体を捕まえてくる現場を『不倫』って言われてしまうなんて……」
ひとつ溜め息をついた彼女は髪から手を離すと、親に赤点のテストを見つけられてしまった子供のように肩をすくめた。
「でも、あなたの気を悪くしたなら、気をつけるわ。
夢をかなえるって、ゲームをクリアするみたいに簡単にはできないのね」
彼女は行儀悪くタケノコの煮物を指先で摘むとにっこりと笑った。
「それよりあなた、出社時間が危ういんじゃない?」
「あ、ああ……」
ニュースの画面の端に映っている時計表示を見れば、もう家を出ないと遅刻する時間帯だった。
僕は慌てて椅子を蹴って立ち上がると上着をはおりながら玄関へ向かう。
「はい、行ってらっしゃい」
椅子に座ったままの彼女は、そんな僕に今日もいつもと変わらない笑顔を向けて、手を振っていた。
《 END 》
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