シラヌガホトケ

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 フワリと、開け放った窓から吹き込む風がカーテンを揺らした。  すっきりと澄み渡った青空を背景に、こちらに背を向けた彼女の片結びにされた非対称な髪形の黒髪がなびいている。  彼女はベランダにいるのだが、決して洗濯物を干しているわけではない。  家事が滅法苦手な彼女は、汚れ物を全てコインランドリーに持って行ってしまうのだから。  恐らくは最近はまっているドローンを使った実験でもしているのだろう。 「すまないが、いい加減窓を閉めてくれないか?  この時期は無暗に窓を開けないって約束じゃないか」  僕は塩を振ったヨーグルトを口にしながら彼女に声をかけた。  重度の花粉症患者である僕にとって、この時期の外気はただそこにあるだけで脅威だ。  風で舞い上がりそうになるマイナンバー通知の書類を指先で押さえながら、僕は勝手ににじみ出る涙で視界が定まらない目を向ける。 「それに、話したいこともあるし」  そう、これは花粉症のための涙だ。  僕の感情によるものじゃない。 「塩入ヨーグルトの花粉症に対する効果をリポートしてくれるの?」 「そういう話じゃないよ」  踊るような足取りで僕の前にやってきた彼女は可愛らしく小首を傾げた。  こうしていると彼女は、本当にただの可愛らしいお姉さんだ。  とてもじゃないが、実験狂いのマッドサイエンティストとは思えない。 「正直に教えてほしいんだ。  ……君は、不倫をしているんじゃないかい?」  ただのしがないセールスマンである僕には、彼女の常識から逸した思考回路を理解することはできない。  だから僕は回りくどい前置きをせず、本題を単刀直入に切り出すと、傍らに置いていたデジカメを差し出した。  先日、売上達成の御祝儀として手に入れた金をつぎ込んで買ったデジカメだ。
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