シラヌガホトケ

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「写真を見てくれ。  どういうことなのか、説明してくれないか」  彼女は素直にデジカメを受け取り、データの確認を始めた。  その様子はいつも通りリラックスしていて、不倫を見破られたやましさも、的外れなことを疑われた怒りも感じられない。 「まさかこれも、何かの実験だ、なんて言わないよな?」  写真に写っているのは、彼女と、僕が見知らぬ若い男のツーショットばかりだ。  駅で楽しそうに笑いあう写真だけならまだしも、車に二人で乗り込んでいる写真を前にして言い逃れはできないはずだ。  『カーシェアリングよ』などという寒々しい嘘は僕には通じない。  そもそも僕が知らない所で僕の知らない男とこんな風に楽しそうにしていることそのものが、僕はもう許せない。 「あら。見られていたの」  一通りデータを確認した彼女の第一声は、それだった。 「でもね、これも実験の一環なのよ?」 「っ……!! 一体何の実験だって言うんだっ!!」  僕は思わずテーブルに拳を振り下ろした。  タケノコの煮物が盛られた器と、SNSの画面が開きっ放しになっている僕のスマホがガタガタと不協和音を奏でる。 「君は実験だって言って猿を飼ったり、猫を拾ってきたり、ドローンを飛ばしたり……!!  他にもオークションでガラクタとしか思えない物を競り落としたり、無茶苦茶だ!!  今まで我慢してきたが、こればっかりは……!!」 「だって、実験に必要なんですもの。成人男性の検体が。  ちなみにドローンは前座よ。  入力する情報を収集するために飛ばしていたのであって、あれは正確に言うと本実験ではないの。  でも、ネコやサルでは耐えきれずに死んでしまったのよね……  まぁ、ニンゲンでも一緒だったんだけれど」  彼女は非対称な髪を指先でクルクルといじりながら、妙に冷めた顔で呟いた。
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