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――トン
たった一本の指で押し倒された。
頭の隅っこで思う。(何度目だ?)
慣れたシチュにもう驚く気力もない。
「こうやって、わらわに押し倒されても振りほどけない」
「てめえが神様だからだ」
苦しい言い訳をする。
「小太郎が狙ったのはあのオナゴじゃないわ。これが佑が聞きたかった答えよ。
どうせ彼女は自分の行いの罰により端っから、恋愛の神のご加護は受けられないのじゃ。だからわざわざあのオナゴに鉛の矢を打つつもりはなかった」
クピトは悪魔のように微笑み、赤い唇を同じく赤い舌で舐めた。
「じゃあ、やっぱり咲彩を?」
「……」
だんまりを決め込むクピトを睨みつけた。
「汚え手を使うんじゃねえよ」
「よく言う。おぬしらもその汚い手でカップルになっただけじゃない。ただ無効にして再構築しようと試みたまでじゃ」
その妖しい眼を覗いた俺は、心底震えが来た。――ホンモノの金の矢に侵された恋の執念は怖い。
「それでも結果オーライでしょ。矢は逸れて吉田ジュリアとやらに当たったじゃない? 彼女もこれで旧い恋に煩わされることなく再出発できるであろう。
恋のリセットは、心に住み着いた相手の亡霊を葬ることから始まるのじゃ」
言い終えると、俺に濃厚な口付けを落としてきた。
んで、俺は俺で、それを抗うこともできずに受け止めてしまったのだった。
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