第8章 恋のライバル

25/29
前へ
/274ページ
次へ
「もう寝る」  俺は母さんが置いたビールにも手を付けず、さっさと自分の部屋に籠ることにした。  朝起きたまま皺くちゃの布団を適当に広げ直し、その上に寝転んで目を瞑る。  せっかくのデートが吉田ジュリアの所為で台無しだ。  この試験終わりのデートを、咲彩も俺も楽しみにしていたんだ。それを……  帰り道、タクシーの運ちゃんの意見に同意した咲彩のドヤ顔が浮かんだ。 「ちっ、なーにが『優しさは罪です』だよ。知ったかぶりやがって」  壁に向かって呟いた。      しばらくしてドアの開く音がした。――どうせクピトが来たんだろう。 「なあに? 随分ご機嫌斜めじゃない。ツンデレと喧嘩でもしたのか」  するりとまとわりつく腕。  神様にも体温があるんだ――どうでもいいことを思った。 「喧嘩……なのかな。ああ!」  思い出してクピトの方へと向き直った。 「なによ?」 「小太郎が来たぞ!」      
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加