第1章 村の鎮守の神の御前

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 正月を迎えると、毎年のように大手の神社へ参り、着物姿の女性を連れて夏目漱石一枚は必ず賽銭箱に入れていた。  そう、毎年だ。  産まれてから一度たりともその習慣を欠かしたことは無かった。  着物姿の女性は、最初はばあさんと母、だがここ十年以上は『カノジョ』という名の愛らしい女性たちが着飾って、俺の脇を飾っていたのだ。 (なのに今年は何なのだ。ったく……) 「鬼道君のそのオレ様的な態度が嫌い」  そんなわけの分からない理由で、クリスマスという大イベントの真っ最中に、俺はカノジョに振られた。 「二年も付き合っててそれはないだろ」  冷静を装って問い返す。 「二年も付き合っててあたしの不満に気づいてくれなかっただけよ。あたし、謙虚で思慮深い人が好きなの」 「なんだよ、その言い方は! まるで俺が、でしゃばりの考え足らずだとでも言いたいのかよ」  で、いささか古いが壁ドン。 「……それ、セクハラ行為だからね。訴えるわよ」  冷たい目で見上げられ、俺の気持ちも一気に冷めたってわけだ。
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