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「それがどうしたのよ?」
「どうしたもこうしたもねえよ、あいつ、鉛の矢を放ちやがった!!」
寝転んだ姿勢から座り直す。同時にクピトもベッドサイドに腰を掛けた。
「それがどうかしたの? 前にも言ったじゃない。あの子は邪になるやもしれんオナゴだって。だからたまに様子を見させていたんじゃ」
「だったらその鉛の矢、なんでもっと早くに放ってくれなかったんだよ」
どうせなら、もっと早くに放ってくれていたらさ、俺のことを嫌いになって黙って俺の目の前から消えてくれただろうに――と勝手なことを考える。
「別に佑のためにあのオナゴを見張らせていたわけじゃないから」
「どーいうことだよ」
「別にぃ。ていうか、早々とあの矢を放ってたらどうなっていたと思う?」
「どうって。……嫌われた?」
「それだけで済まんのじゃ。あれはね、恋心を失わせると同時に、その相手に対して憎しみや軽蔑心も生む。ソチを軽蔑している人間が同じ仕事場にいるとか、やりにくくはないか?」
言われてみたらそうだ。
けど、そういう意味では、すでに逆恨みされていたけどな。
「わらわは忠告したはずじゃ。彼女にはもう関わるなと」
「関わってねえよ! 向こうから呼び止められたんだよ」
「だが」そう言いつつ人差し指を俺の胸に突き立てる。「吉田ジュリアにひと言でも謝りたいとか思っていなかったか。傷ついた彼女をどうにかしたいと、少しでも思っていたんじゃない?」
「ああ、……ああ、思ったよ。悪いか? 嫌われたままこれっきりってのは後味わりーじゃん。けどさ! 思っただけだよ。俺からは関わってねえって!」
「その心の隙を付かれたのじゃ。ソチは優しすぎる。自分勝手なくせに、妙に他人に甘い。だから付け込まれるのじゃ」
突き立てられた指に力が籠められた。
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