第十章 恋愛下手の神様と俺とカノジョと

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そろそろ咲彩は夏休みに入ったんだろうか。 なーんてね、ことある事に別れたはずのちびっこい女子高生を思い出す。 『しばらく会わない』って言われてから、俺の方からは連絡を控えた。 控えたというか、『それでも会いたい』と髪振り乱してすがるほどには俺も咲彩のことが好きだったわけでもないんだよな。 そんなふうに自分を納得させていた。 それでも時折、ふとした拍子に思い出すんだ。 挑むような意思の強い瞳。 サラサラの髪が跳ねる様とか。 不服そうにツンと尖らせた唇。 まあね、どうせまやかしの恋だったんだ。いずれ醒める夢。 いずれ……が来る前に彼女の方からキッパリ手を切った。それだけだ。 むしろ…… 部屋の中に無造作に置かれたままのビール缶。白い羽根。 何故か片付けられずに放置している、クピドが残した残骸。 片付けちまうとあいつがいた事が、それこそ無かったことになっちまいそうで…… 朝起きて、ダイニングに降りると、何事も無かったように当たり前の顔をして、納豆を食べているあいつが居るような気がして、未だにあいつの姿を探している。 母さんなんてとっくに記憶からあいつを無くしてしまっているというのに。 俺だけ夢から覚めないとか…… ビール缶の口に止まったハエを指で弾いて追っ払った。
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