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ふいに強く風が吹いた。金木犀の葉がカサカサの揺れて、オレンジの小さな花がぶわっと宙に舞った。突風に驚いた彼女がひらりと浮いたスカートをおさえる。
「……今の風、カロ姉かな」
「どうでしょうね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません」
カロ姉そっくりの彼女が小首をかしげた。肩についた薄茶色の髪がさらさらと流れた。
「カロ姉は家族想いだった。きっとあなたも大切な姪だと思います。あなたに手を出したらカロ姉に怒られそうだ」
「ありがたく褒め言葉として受け取っておきますね」
“ありがとう。褒め言葉として受け取っておくね”
20年前、小学生の僕がカロ姉に告白した時と彼女の受け答えは全く同じだった。
「さすが姪っこさんだ」
「え?」
「まるでカロ姉に2度フラれたみたいな気分です」
明るく言ったつもりだったけれど、彼女は神妙な顔をしていた。
「……さあ、それは違うんじゃないですか。もし加代おばさんが生きていて、あなたが同じことを言っていたら結果は違ったかもしれませんよ。私は私ですから」
彼女はそう言ってにっこりと笑う。確かに、大人になった今なら受け入れてもらえたかもしれない。
もし今、カロ姉に気持ちを伝えることができたなら……。できるわけない。だってもう死んでしまった。
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