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ふいに彼女がまるで体当たりをするように正面から僕の胸に飛び込んできた。そのまま身体がつよく抱きしめられる。突然のことに混乱した。
「え、何してるんですか。あの……」
名前を呼ぼうと思ったが名前がわからない。彼女は両手を僕の背中にぎゅっと回した。こうして見ると彼女はずいぶん小さい。背も、頭も、手も、何もかも。
自分の胸のあたりから彼女のつらそうな声が聞こえた。
「悲しませてごめんなさい。……椎名さん。余計なことを言いました」
「大丈夫ですから、やめてください」
「でも――…」
「本当に、やめてください!」
勘違いしそうになる。彼女はカロ姉じゃあないのに。まるでカロ姉に抱きしめられているように。
「ダメです。僕は……僕はカロ姉のことがとっても好きだったんです」
声が震える。口にして恋心に気がついた。とっくに終わったはずのはつ恋に、いつのまにやらまた火がついていた。もうカロ姉はいないのに。
「私じゃ代わりになりませんか?」
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