はつ恋キンモクセイ

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代わりにならないわけがない。だって彼女は顔も声も何もかもすべてがカロ姉にそっくりなのだ。 「代わり……なんて……悪いですよ。あなたがそんなことまでする必要ない」 彼女の肩を掴んで自分から引き離した。おそらくかなりヘタクソだろうが、笑ってみせた。 「大丈夫ですから。もしかしたらカロ姉はまだここに住んでいて、偶然会えるかもしれない、なんて……そんな都合のいいことを思っていたものですから」 僕の家が昔建っていた更地の隣に、カロ姉の家は当時のまま建っていた。金木犀の木も変わらず、オレンジの小さな花を咲かせている。 彼女は眉を下げて申し訳なさそうに言った。 「そう、ですか……ガッカリさせてごめんなさい。でも叔母は嬉しかったと思いますよ、大人になったあなたが会いに来てくれて。絶対絶対嬉しかったと思います」 そんな確証のないセンチメンタルな作り話、いつもならシラケた気持ちにしかならないというのに。カロ姉そっくりの彼女に言われると不思議な説得力があった。
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