48人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいえ、彼女は犯人ではありませんよ、ヒース警部」
男の声は、大理石でできた天井に反響し木霊を返す。
「しかし、アンロック・サーチャーさん、では何故彼女は、事件後に姿を消したのです? 犯人で無ければ、その様な必要は無いではないですか」
ヒース警部はアンロックに向けて問いかける。アンロックの手にはトレードマークとも言える鹿撃ち帽が握られていた。そのため、彼にしては珍しく、後ろにきれいになでつけられ、そろえられた栗色の髪が露わになっている。アンロックはその髪型をしきりに気にしていた。
「それは、犯人が、彼女に罪を着せようとしたのですよ。悪党が良く取る方法です。スケープゴートと言う奴ですよ」
アンロックはパイプをくゆらせながら、ヒースの質問に応える。
「では彼女は?」
「犯人により捕らえられ」
アンロックはそう言うと悲しそうに首を振る。その態度に、周囲の人々は慨嘆の声を漏らす。
「しかし、それなら犯人は誰だというのです?」
ヒース警部はじれたように問いただす。アンロックはパイプを右手で掴み、煙を吐くと、
「犯人は彼ですよ」
そう言って、パイプの吸い口で、その場にいる一人の男を指し示した。
最初のコメントを投稿しよう!