嵐の前

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 その夜、メアリーは父とエンハンスの対面を、少し緊張した面持ちで眺めていた。父は、メアリーのことを溺愛していた。そのメアリーと一つ屋根の下で、若い男が共に生活すると言うことを父が許可するだろうか? 二人が初めて顔を合わせるその瞬間まで、その様な不安がふつふつとわき上がるのを、彼女は止めることができなかった。  しかし、メアリーの心配とは裏腹に、エンハンスとアンダーウッド刑事の初対面はなかなか友好的な始まりだった。 「君が、妻と娘を救ってくれたらしいね? 礼を言うよ。ありがとう」  一通りの挨拶を交わした後、アンダーウッドはエンハンスにそう言ってほほえみかけた。 「いえ、たまたま居合わせただけですから。それに、見て見ぬふりはできない質で」 「よく分かるよ。俺も同じような物だ。おかげで、始末書の山だがね」  アンダーウッドはそう言うと、大声で笑い、エンハンスの肩を力強く何度も叩いた。  アンダーウッドは身長こそ標準的だったが、その服の上から張り出すように膨れ上がった筋肉からも推し量れるとおり、豪快な態度だった。それは昼間、この家を襲撃したモイーズなど相手にならないと思えた。だからこそ、モイーズはアンダーウッドのいない時間帯を狙ってやってきたに違いない。これでは、町中でも一目置かれるか、もしくは畏怖の対象となるだろう、エンハンスも叩かれた肩が痛むのか、表情を歪ませていた。
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