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「先祖代々の悲願のためか」
エンハンスは、彼がアンダーウッドにこの町に来た理由を尋ねられた時に応えた言葉を繰り返した。その言葉に嘘は無い、彼は、彼の親や祖父、そのまた上の世代、全ての悲願を達成するためにこの地に来たのだ。もっとも、どのようにすればその悲願が達成出来るのかは分からない。それだけ彼らの悲願は困難な代物だった。それもそのはずだ、もしたやすい事であるなら、彼の代までその問題が残って等はいないだろう。彼らは代々、その問題を解決するために尽力してきたのだから。
エンハンスはその建物から視線を引きはがした。何とか横に向けた視線の先では大きな月が、静かに町を照らしていた。
「そうだ。あの、月のような存在で十分なんだ」
エンハンスは独りごちる。
「こんばんは、良い月ですね」
不意にそんな声をかけられる。エンハンスはきょろきょろと辺りを見回す。
「こっちです」
その声は上から聞こえたような気がした。彼はその声に導かれるまま、視線を真上に向ける。
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