嵐の前

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「でも、この町だって、そんなに先進的なわけでは無いと思いますわ」  メアリーはエンハンスの言葉に首を傾げる。 「ええ、その通りです。私達の町が遅れているのでは無い、この国が遅れているのです。この国の周辺にある国々と比べて」  エンハンスの言葉に、メアリーは目を見張る。その様な事は初耳だったからだ。彼女自身、この国以外にも国があることは意識していながらも、それらの国がどのような場所なのかは考えたことが無かった。 「周辺の国ですか?」  メアリーは彼女自身の驚きをその言葉に込めて問い返す。 「ええ、そうです。我々が住む国と、周辺諸国との国交は、有る一部の階級にしか許されていない、海外から得た進んだ知識は、一部の人間にしか与えられていないのですよ」 「よその国は、そんなに進んでいるのですか?」  エンハンスの口ぶりから、メアリーはその様な疑問を口にした。 「ええ、生活の水準がまるで違います。我々は、石炭をエネルギーのメインとして使用していますが、海外では今は電気が主流です」  その時、一台の蒸気機関自動車がけたたましい音を立て、煙を噴き上げながらメアリーの家の前にある道を走り抜けていく。
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