嵐の前

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「本当に自動車というのは無粋で嫌になります。そもそも、この辺りは走行禁止区間なのに」  すでに走り去り、姿が見えなくなっているのに、未だに響く耳障りな轟音に顔をしかめ、メアリーが怒りをあらわにする。 「緊急車両ですかね。とはいえ、一刻を争う時というのはどうしてもありますから、有用ではありますよ。要は使い方です。もっとも、海外では電気式の自動車というのも作られているようですが」 「電気ですか?」  電気と聞いて、メアリーが思い浮かべるのは、雷だった。その様な恐ろしい物が、どうして生活に利用出来るのか、彼女には想像すら付かなかった。 「そうです。例えばそこにある街灯、こちらではガス灯が使われています。ガス灯はガス灯で素晴らしい発明ですが、海外では電気により明かりを作ります」  電気により灯りを作る、とはいったいそれはどのような方法なのだろう? メアリーには、皆目見当も付かなかった。あの恐ろしい雷を人間が制御できるなんてとても思えないし、たとえ制御できたとしても、稲光は眩しすぎる。それに、あんなに大きな音を常に聞いていないといけないくらいなら暗い方がましなくらいだ。
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