探偵の足取り

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「あれは、まだ昼過ぎでしたから、別の場所に向かった後に倉庫街に向かったんでしょうね。たとえ、七時よりも前に倉庫に着いていたとしても、それだけの時間は十分あったと思います」  メアリーがそう応えて歩き出す。エンハンスもその後を追うようにして足を動かした。 「こちらには何があるのでしょう?」  エンハンスが、メアリーの横に並んで問いかける。 「そうですね、こちらは市街の中心ですから、人通りは激しくなります。だから、誰かにモイーズの姿は目撃されていると思いますよ」 「市街地ですか」  メアリーの希望に満ちた言葉とは裏腹に、エンハンスはあまり喜びの感じられない声を出す。 「細かい路地を入ったのなら別ですが、普通に考えたなら、たぶん、この辺りを通ったと思います」  メアリーがそう言ったのは、アンダーウッドの家から歩いて二〇分ほどの距離にある、ウイリアム四世広場だった。その広場から西に向かえば女王が住むダッキンガム宮殿、南に向かえばダウジング街と呼ばれる首相の住む官邸が、そこからさらに南に向かえばリンドンの象徴とも言える時計塔へと続き、まさにこの町の中心と呼ぶにふさわしい、賑やかな場所だった。
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