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それは黄色い世界。
魚が無尽蔵に描かれ、まるで本当に泳いでいる。
何故[黄色]なのか。
魚が泳ぐのなら[青]だろう。
それでもキャンパスの中で赤や青、緑にオレンジの魚は泳いでいた。
二人の側に寄りキャンパスを眺めて立つ俺に、芽衣と雅は怪訝な顔を向けていた。
「先輩、何か?」
低い不機嫌な声で雅が尋ねてくる。
はっ!として俺は絵の中から二人に視線を返した。
「いや、これのどこがダメなのかな?俺はいいと思うけど?」
取り繕うように言葉を吐き出すと雅はそれと判るように舌打ちをし、芽衣は目を丸くして見上げてきた。
「本人が気に入らないんだから、周りの意見なんか要らないってーの」
ボソリと毒々しい台詞を吐く雅に俺は[女に優しく]の精神を忘れかけてしまう。
笑顔を張り付けて雅を見遣るが、完全に睨み付けてくる雅と対峙しているとクスリと声を漏らして芽衣が笑った。
「雅の言う通り、私は気に入らないんですよ、ふふ……」
笑いながら芽衣は仕上がりかけているであろうその絵を白く塗り潰し始める。
「あっ!!」
引き留める間も無かった。
ニコニコと描き直しを始める為にキャンパスを白くしていく。
潔いにもほどがある。
何時間もかけて描いていただろうに。
勿体無い。
「ほら、邪魔ですよ先輩。芽衣の邪魔しないで下さい」
雅はまた芽衣の後ろに席を置き直して
俺を払い除ける仕種をした。
〈だ、か、ら、どんだけ嫌いなんだ?!嫌われるような事してねーだろ?!〉
俺にしては珍しく憤然として、ため息を吐いて自分のキャンパスに戻った。
後にはまた筆を摩る音だけが残る。
その日芽衣はキャンパスを白くしただけで雅と二人で帰宅してしまった。
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