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絵になど真面目に取り組まなくても、俺には[ソコソコ][ホドホド]にそつなくこなせる。
[血統]の成せる業だと云えばそれまでだが、ただ単に俺が器用なだけだろう。
だから、という訳でもないが、芽衣の所業は理解に苦しむ。
〈あれだけのものが描けていれば文句も言われないはずだ。それどころか、高評価を受けるだろう〉
芽衣と雅が帰宅した後、一人残った俺は白くなってしまったキャンパスを惜しむように眺めてしまった。
「恭一、あんた今度の展示会に参加するわよね?」
家に帰ると姉の楓が有無を言わさぬ威圧をかけてきた。
「展示会?」
「父さんの個展、新作お披露目会よ。来週土曜日だから、下手な女連れて来ないでよ品が堕ちる」
「判った」
姉の楓は気性が荒い。
兄姉とは年が離れているから兄には甘やかされて育ったが、姉はいつの頃からか俺に少し手厳しくなった。
仕方がない……祖父に似ているとはいえ、連れて歩く女がコロコロ変わる弟を不在がちな両親に代わって心配してくれていると思えばこそだ。
〈父さんの展示会、ね〉
ふと、芽衣を連れていけばどんな反応をするのか気になった。
〈誘ってみようか?〉
気紛れにそう思った。
あの[番犬]のような雅もついてくるかもしれないがそれはそれ、別に構いやしないだろう。
あれだけ[絵]に真剣に向き合うのだ、父の絵が役にたつかもしれない。
〈喜ぶかもしれない〉
そう思うと何故か顔が緩んできた。
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