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暫くこの騒がしい会話に我慢して耳を傾けてみた。
確か、昨日雅が『明日は来れない』と言っていたな……旅行に出掛けるのか?
じゃあ、芽衣も一緒に?
いやいや、自分が居ない間にご飯がどうとか言っていたな……では芽衣は今日から[番犬]無し?
身体がざわついた。
握る筆が震えているのが判る。
カタリと席を立ち、来たばかりだというのに手際よく道具を片付ける。
と、女の子達がどよめいた。
「ごめん、用事があるのを思い出してね、またね。皆、暑いから水分補給を怠らないように」
爽やかさを漂わせて、俺は落ち着いているフリをして美術室を出た。
芽衣の自宅は何処だったか?
連絡先は?
聞かなくても勝手に教えてくるモノだから、[知らない]事に驚きもした。
はて、知っていたらどうする?
いきなり押し掛けて、引かれるだけではないのか?
教えられてもいないのに、知っていたら怖いだろ?
歩く速度が落ちた。
「ふっ……はっ……ははは!」
住宅地の舗装された道端で、頭を抱えて込み上げる笑いを表に出す。
「暑いなぁ……」
空を見上げて立ち尽くす。
自然とため息が漏れる。
喉が渇いている事に気付き、自販機を求めて歩き出すと緑のある公園を見付けた。
自販機くらいあるだろうと公園に足を向けてみた。
数人の子供が遊ぶ中木陰のベンチに芽衣を見付けた。
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