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夏の強い陽射しを避けているとはいえ涼しげな顔で、僅かな風を受けながら何処かを眺めていた。
そこだけが切り取られた絵画の中にいるようで、やはり声を掛けるのを躊躇われる。
太陽が高くなってくると、子ども達は暑さに負けて帰宅し始めてしまった。
すると芽衣はゆっくりと立ち上がり、反対側の出入り口に向かってすたすたと歩き出してしまう。
俺は慌ててその後ろ姿に向かって走った。
「おいっ!は、ざま!間、ちょっと!」
普段なら有り得ないくらい焦ってしまい、上擦った声が出てしまった。
その声に芽衣は足を止めて振り向いた。
特別驚きもしていないような、困惑したような顔。
「えーっと……先輩?」
「き、のさき、城崎だ!」
「キノサキ先輩、何でしょう?」
名前すらまともに覚えていないのか、と一瞬イラつきを感じた。
それでも私服姿の芽衣が目の前に立っていると判ると、暑さもあって顔が火照る。
ほんの数メートル走っただけで汗が流れる。
心臓がいつもより早く動く。
息を整えて口を開く。
「あの、お前、来週の土曜日、暇か?」
「土曜日?」
「ああ、ウチの親の個展があるんだが、もし、興味があるならどうかと思って」
「親?」
「ああ、俺の親は[城崎孝輔]って名で……」
「[城崎孝輔]?!あの[城崎英心]の息子の?!」
〈そこに食い付くのか〉
「ああ、英心は俺の祖父だ」
「ほぉわぁぁぁ!マジですか!すげぇ!!」
芽衣の反応は想像以上のものだった。
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