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流石[絵描き]というべきか。
芽衣は2つ返事で個展に出掛ける事を喜んでくれた。
親の名前にだけ反応が善いと、今までにない腹立たしさを覚えた。
これまで[城崎]という名を後ろ楯にして過ごしてはきたが、それは産まれた家がそうであるだけで、俺がどうと云うことではないと判っている。
それに、名とともに俺の容姿に群がる女どもは大勢いるのだから、親の存在抜きにして俺を欲する輩はウザいほどいるのだ。
なのに、だ。
芽衣は俺になど興味をもたず、親に興奮して顔を綻ばせた。
〈気に入らないな〉
とにかく、来週の土曜日には芽衣と個展に行ける、それだけは少し心が跳ねる思いだ。
だが、事は簡単に運んではくれなかった。
「恭一、あんた、北条正史の娘さんと知り合い?」
「ん?ああ、高校の後輩だ」
「そう。まさか、手を出してはいないでしょうね?」
「はっ?!まさか!あのコには嫌われてるよ、何故だかね」
「そう、なら良いの。くれぐれも北条正史の娘さんに失礼を働かないように、ね?」
姉が凄んで釘を刺してきた。
約束の日の3日前である。
何故急にそんな事を言い出したのか気にはなったが、約束を取り付けてから学校に行っても芽衣には会えなかったから、俺は密かに落ち込んでいた。
だから会える土曜日を待ち遠しく思えていたのだが。
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