カイコウ

12/14
前へ
/220ページ
次へ
流石[絵描き]というべきか。 芽衣は2つ返事で個展に出掛ける事を喜んでくれた。 親の名前にだけ反応が善いと、今までにない腹立たしさを覚えた。 これまで[城崎]という名を後ろ楯にして過ごしてはきたが、それは産まれた家がそうであるだけで、俺がどうと云うことではないと判っている。 それに、名とともに俺の容姿に群がる女どもは大勢いるのだから、親の存在抜きにして俺を欲する輩はウザいほどいるのだ。 なのに、だ。 芽衣は俺になど興味をもたず、親に興奮して顔を綻ばせた。 〈気に入らないな〉 とにかく、来週の土曜日には芽衣と個展に行ける、それだけは少し心が跳ねる思いだ。 だが、事は簡単に運んではくれなかった。 「恭一、あんた、北条正史の娘さんと知り合い?」 「ん?ああ、高校の後輩だ」 「そう。まさか、手を出してはいないでしょうね?」 「はっ?!まさか!あのコには嫌われてるよ、何故だかね」 「そう、なら良いの。くれぐれも北条正史の娘さんに失礼を働かないように、ね?」 姉が凄んで釘を刺してきた。 約束の日の3日前である。 何故急にそんな事を言い出したのか気にはなったが、約束を取り付けてから学校に行っても芽衣には会えなかったから、俺は密かに落ち込んでいた。 だから会える土曜日を待ち遠しく思えていたのだが。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加