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書類を目にしてから数日後、出版社に彼女はやって来た。
雪がちらつく中寒かっただろうに、彼女は社内の会議室に通されて温かい珈琲を飲んでいるところだった。
どんな顔をして行けばよいのか心臓が逸り、手が震える。
情けない話しだが、俺は彼女に逢える事に怯えていた。
息を吸っては吐き出し、緊張した心を落ち着かせてから扉をノックする。
「はい」
覚えのある懐かしい声が応えてくる。
「失礼します。お待たせ致しました、本日より新しく担当させて戴きます城崎です」
「はい、宜しくお願いします。……ふふ、ふっ……ふはっ!」
頭を下げてマニュアル通りの挨拶をしながら入室した俺に、彼女、間芽衣は可笑しそうに吹き出した。
「お久し振りですね、城崎さん、ふはは……真面目なあなたは……はは、ごめんなさい……ははは……おかしくって」
芽衣は腹を抱えて笑い転げる。
長い髪を束ねて、大人となった彼女は昔と変わらず[綺麗]なままだった。
その姿に暫く言葉もなく、閉めた扉の前で立ち尽くし呆れてしまったが、彼女、芽衣のくだけた雰囲気に緊張感もどこへやら。
俺は落ち着きを取り戻して[仕事]に取り掛かる事が出来た。
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