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〈コイツ!何時から居るんだ?まだ9時だぞ!〉
室内には芽衣しかいない。
よく見ると鞄が2つあるから雅も一緒なのだと判るが、俺が来た事にも気付かないのか、扇風機を独占して黙々と筆を動かし続けていた。
開け放たれた窓から生温い風が入ってくる。
〈暑い……くそっ、俺にも風寄越せって〉
伝う汗を拭いながら窓際に陣取る芽衣を横目に見ると、扇風機がこちらに向いて風を吹かしていた。
芽衣は僅かに揺らぐカーテンの前で涼しげな顔で筆だけを追っていた。
〈いつの間に……〉
「芽衣ー、アイス買ってきたー。あら、先輩も居たの?食べます?」
外から戻った雅がビニール袋から汗をかく袋物アイスを嫌々手渡してきた。
「……どうも」
引き吊った笑顔で礼を告げると、ふいと身を返してスタスタと芽衣の元に歩く。
〈どんだけ俺を嫌ってくれる〉
その態度に苦笑いが込み上げてくる。
「芽衣」
「ん?んあ、ありがと」
「進んだ?暑くないの?なんで扇風機あげちゃうのよ」
「んん?らっひぇあっひはかひぇあひゃららいらひょ?」
「何言ってるか判るよーで判らないから。で、進んだ?」
「んーん、気にいりゃりゃい……んぐ、描き直していい?」
「明日から私は来れないって言ったでしょ。ちゃんとご飯食べるなら描き直せば?」
「うー……」
二人の会話が聞こえる。
当たり前だが、ふと、俺は芽衣が何を描いているのか気になってキャンパスを覗いた。
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