ー無知なる迷いー

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ー無知なる迷いー

 このところ外に出てない俺は、お嬢が帰ってくる夜はお嬢と一緒に寝ていた。俺はお嬢と一つのベッドで一緒に眠る。人間の女相手の様に抱く訳では無い。ただ、眠る。俺にはそれが一番安心できる。俺がお嬢に寄って実体を作られたからだと思う。  今まで俺は独り寝をする事が殆ど無かった。俺が適当な人間の女を抱いて帰らない事が多かったからだ。人間の女は簡単に体を許す。抱く事に快感は無いが、腕の中で表情を変える女を見るのが俺の娯楽だった。猫又に精気を喰らわれ、お嬢に寄って回復しても、まだ本調子ではなかったし、単純に出歩く気分にもならなかった。そうなると、お嬢が帰らなければ、俺は独り寝になった。独りでベッドに寝ても、眠れる気配はなく、朝までの時間を持て余した。眠らなくても人間ではないから、死にはしない。  お嬢が帰らなかった夜を持て余した俺がうたた寝から覚めると、やはり部屋はがらんとしている。廃ビルの一室であるのが余計に空虚さを増す。いい加減外に出れば少し気分転換にでもなるだろうか、と部屋を出て昼間でも薄暗い廊下を歩く。階段を降りていると、階下から氏神の声が聞こえてきた。 「猫、お前、命の恩人に威嚇してどうする」
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