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孫を窘める様な口調であった。独り言にしてはおかしいな、と俺は思い、声のする方へ足を向けた。廊下の角を曲がると座り込んだ氏神とその前にしゃがみ込むお嬢が居た。お嬢の手には猫じゃらしの様な草が握られている。氏神の腕の中の猫又が逆毛を立てている。
俺はお嬢の姿を見てほっとした。
「お嬢、おかえり」
「……ただいま、村正」
お嬢は俺の方を向いて表情を変えないままに呟いた。手には草を握ったまま。先が猫じゃらしの様になった草は猫又を構う為にわざわざ摘んで来たのだろうか。見た目は子猫だが、猫又は妖怪だと言うのに。俺はお嬢の隣まで歩いてしゃがみ込んだ。お嬢は猫又に視線を戻し、威嚇する猫又の前で草の先を振る。氏神が腕の中の猫又をあやしている。
「なあ、妖刀。お前の主は本当に喋らないんだな」
猫又をあやしながら氏神は俺に言う。隠居した気のいい爺さんの様だ。猫又にもお嬢にも孫に向ける様な視線を向ける。
「俺以外には、今のところ」
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