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俺は少しだけ笑って答えた。それでも、お嬢が氏神の前に居る事だけで俺に取っては充分だと思う。今まで何年もお嬢は氏神の前に姿を見せもしなかった。氏神は直接お嬢を目の前にした事は無いはずだ。
「猫、そう威嚇するな」
猫又を撫でて氏神は諭す様に言う。それも聞かずに猫又はお嬢を威嚇する。助けられたとしても、一度は斬られた相手だから仕方ないかと思う。猫又が一向に落ち着かないのにお嬢は諦めたのか、手にしていた草をぽとりと落とした。
「……和葉、またね……」
毛を逆立てる猫又にお嬢は手を伸ばすが、引っかかれる。爪痕を付けられた手の甲をお嬢はしばらく見ていた。
「鵺のお嬢、この猫は和葉って言うのか?」
氏神が訊くと、お嬢は頷いた。氏神は笑う。
「そうか、お前は和葉って言うのか」
氏神が腕の中の猫又を撫でている姿を見て、お嬢は立ち上がった。氏神の撫でる手に猫又が喉を鳴らしているのを見てから、踵を返す。お嬢は俺が来た方向へ静かに歩いて行く。
「妖刀、追いかけなくていいのか?」
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