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それから数日が経ったある日。
お嬢が棲家にしている廃ビルの一室に、怪我をした白猫を抱いて戻ってきた。
「どうした? お嬢、その猫」
俺は鵺である少女を「お嬢」と呼ぶ。呼び名を知らないからだ。未だ数百年一緒に居ても知らない。十代前半の少女の姿をした鵺は、今は何処のものでもない制服姿をしている。小柄な美しい少女は薄汚れた白猫を抱えて俯いている。
「拾った」
「……怪我した猫を?」
「この子、こないだの猫又よ」
お嬢の言葉を聞いて俺は驚いた。怪我をして薄汚れた白猫が、俺の精気を喰らい尽くそうとした猫又の女とはどうにも結びつかない。それに、あの猫又はお嬢が切り捨てた。死体を俺は見たはずだ。
「死んだんじゃなかったのか?」
「まだ生きてた。さっき、そこで動かなくなった」
「今度こそ死んだのか?」
「まだ、少し息はある。村正、この子を殺したい?」
俯けた顔を上げて、お嬢は俺に訊く。相変わらずの無表情だ。しかし、お嬢は今まで俺にそんな事を訊いた事はなかった。お嬢が他の化け物を切り捨てるのも、俺はこないだ初めて見た。そのお嬢が自ら斬った猫又を抱いてくるとは、俺は戸惑うばかりだ。答えに窮する俺をお嬢は静かに見つめる。
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