第1章

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 新年度で配置換えになった部署は、在庫管理のために何かと倉庫に赴くことが多い所だ。  そのおかげで、今じゃ倉庫の中は、物の置き場も出入り口の数も、出た先がどこの部署や部屋に繋がっているのかも完璧に記憶済みだ。  ただ一つ、イマイチ実態が掴めない扉があるけれど。  実態が掴めないといっても、開かずの扉で、その先がどうなっているのかが判らないということじゃない。  倉庫内にある普通の扉で、開いた先はさらに倉庫の奥。そこで行き止まりという場所の扉だ。  ただ、ここの扉は引き戸なんだけど、俺が知る限り、たまに押して入って行く奴がいるんだ。  少なくとも二、三人は見た。どいつも同じ部署の奴じゃないから、顔も名前も知らない奴だ。  近くでじゃなく、たまたま倉庫内にいたらチラと見かけた、程度の形だけど、確かに誰もがそこの扉を押して中に入って行った。  そういう開き方もするのかと、俺も扉を押してみたことがある。けれど当然のように扉はびくとも動かないし、引っ張ってみてもダメだった。  押して入りようなんてない、完全な引き戸。でも確かに、あいつらはこの扉を押し開けて入ったんだよな。  疑問に思ったが、引き戸が引き戸であると立証された以上、意見を差し挟む余地はないので、俺は自分が見たものを目の錯覚で終わらせた。  …ちなみに、俺が見かけた連中は、聞いた話じゃ、全員、いきなり会社に来なくなったとか。辞めたとかですらなく、もう少し突っ込んだ噂じゃ、みんな行方不明という話だ。  もしかして、あの引き戸を押して入ったからじゃ…という懸念はある。でも、あの扉が押しても動かないのは周知の事実だ。俺の観た光景を話したところで、見間違いと言われるのがオチだろう。  普通に開ければ倉庫の奥に通じるだけの引き戸。そこを押して開けた時、扉ははたしてどこに通じるのか…興味がなくもないけれど、顛末が判っている以上、俺は知ろうとは思わない。 引き戸…完
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