第9章 それでも変わらなかったから-2

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この町に慣れてきた私は、1人でふらふら出掛けることが増えて、行きつけの居酒屋が出来た。 ある日、マスターのタケさんと私がカウンター越しに話をしていると、合コンをしてるらしき男女4人が入ってきた。 私はその時入ってきた男の人の顔が見えた瞬間、自分の顔が見えないように全力で背中を入口に向けた。 びっくりさせないで欲しい。 諒司と翔太くんだ。 2人は、というか4人は私の斜め後ろにあるテーブル席に座った。 ちょうど死角になる位置だ。 お客さんが来ちゃったから忙しくなったタケさんに放置されて、私はタバコを吸い始めた。 本当に相変わらずな人たちだ。 中でも1人の女の子は諒司の事が本当に大好きらしくて、『こないだ好きって言ってくれたじゃん』とはしゃいでいる。 本気にする子がいるんだなぁ・・・と思う反面、諒司も本気で気に入ってる子なのかと思うと、私はなんだか馬鹿らしくなった。 タケさんが私の相手を出来なくなったし、バイトの子に話しかけると私の存在がバレそうで黙ってると、4人の会話が丸聞こえだ。 「諒司~、いつ付き合ってくれるの?」 「諒司じゃなくて春野。 俺名前で呼ばれるのくすぐったいの~。」 私、今すぐ振り向きたかった。 振り向いたって見えやしないけど、振り向きたかった。 「大体結婚してるし。」 「関係無いじゃん、好きって言ってくれたじゃん。」 凄い、ここまで強引な子も世の中にはいるんだ。 「諒司は無理だよ、ずっと片思いしてるから。」 翔太くんの聞き取りやすい低音が響いた。 「うっそ、何それ。」 女の子の声が聞き分けにくい。 私も盗み聞きみたいなことして趣味悪いな。 片思いー そんなの知らなかったな。 私、本当に諒司の何も知らなかったんだ。
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