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「何してるの?」
諒司はまるで何事も無かったように私に聞いた。
「ここ、たまに来るの。」
そして私も何事も無かったかのように答える。
「1人でか。」
「悪い?」
「いや、勇ましい。」
「・・・あの、戻った方が・・・」
「美咲は本当に勇ましいな。
俺が合コンしてても顔色一つ変えない。」
あぁ・・・出た。
そうやって少し寂しそうな顔をして。
ダメだよ諒司、そんな顔したって、私にはそれが演技かどうか見抜けないんだから。
大体そこじゃない。
私が気になってるのはそこじゃないんだよ。
席に戻る諒司の背中を見つめながら、私は『美咲って誰?』って・・・心の中で聞いた。
「ねぇ諒司ー」
またあの子の声がする。
「だーかーら、諒司って呼ぶなって。」
「なんでよ、ケチ。
ねー美咲って誰?」
「そんなに気になるなら見てくれば?」
「えっ?」
「はっ?」
女の子と翔太くんの声が重なった。
危うく私の声まで重なりそうだった。
「居るよ、そこに。」
ちょっと待って、空気読めないにも程がある。
「俊ちゃん、私帰るっ。」
バイトの男の子にお勘定をしてもらうように伝えてると「面白い展開なのに。」と俊ちゃんは笑った。
私から少し離れた位置で黙々とお皿を洗いながら、ちゃっかり俊ちゃんも聞いてたんだ。
「何が面白いのよ。帰る帰る・・・」
「美咲ー」
翔太くんの姿が見えて、私が俊ちゃんに視線を移すと、俊ちゃんは知らん顔をした。
翔太くんの後ろから女の子たちも見える。
これほど気まずくて恥ずかしい思いをしたことがあっただろうか。
「あ、翔太くん。久しぶり、でも私帰るんだわ。」
「美咲ー」
「諒司、馬鹿なんじゃないの。
大体美咲って・・・私なの?」
『同じ名前の子でした~』なんてオチで晒されたなら、本当に恥ずかしい。
「美咲。」
なだめるような声で私の名前を呼ぶ翔太くん。
「何・・・?」
「隣いい?」
「合コン中でしょ。」
「お前俺達の話聞いてたんだろ?」
「聞こえてきたんだよ。
私の方が先に店に居たもん。」
なんで私は泣きそうなのかー
別に何かを咎められてるわけでもないのに。
「別にそんなのはいいけど、俺、美咲に話さなきゃなって思ってたことがあるんだよ。」
翔太くんがすごく小さな声で私に言った。
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