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「俺が呼んでって言ったからだよ。」
「ちょっと・・・」
「俺が美咲に諒司って呼んでって頼んだんだよ。」
諒司らしくもない。
絶対的に可哀想なポジションに置かれてる女の子にここまで追い詰めるような態度取るなんて。
私がどんな言葉を発しても、きっとマイちゃんを傷つけるだろう。
「ほら、私は行かないからさ、行ってきなよ。」
諒司を落ち着かせるように、私はなるべく和やかに言った。
「今美咲とここで別れたら、お前2度と俺と会ってくれなそうじゃん。」
あの日、告白してきたあの日と同じだ。
ちょっと鼻にかかった声で、子供みたいなことを言い出して。
「翔太くん、ちょっとこの人飲み過ぎだよ。」
『諒司』と呼びにくいこと、諒司と直接会話がしにくいことが、もう本当にやりにくい。
「酔ってねぇよ、俺は。
でもお前、ほんとにいつ居なくなるか分かんねー女じゃん。」
それはこっちの台詞だ。
まるで私がいつも逃げ回ってるかのような言い方をして。
このままじゃ埒があかない。
私は諒司に近付くと、諒司の耳元で小さく言った。
「諒司、私は居なくなったりしない。」
諒司は何か言いたそうに私を見たけど、結局何も言わなかった。
「美咲、ごめんな。
連れてく連れてく。」
翔太くんが諒司を連れて外に出た。
私はマイちゃんに凄い剣幕で睨まれたけれど、正直私が悪いわけではない。
あまりに睨んでくるもんだから、「諒司の言葉なんて間に受けない方がいいですよ。」なんて、辛口なお節介をしてやりたくなったけど、もう1人の女の子が頭を下げてきたのを見て、私も軽く会釈をした。
なんだかぐったりした私は、お酒を飲み直しながら、ぼーっと店に流れてるテレビを眺めてた。
「やっぱり片思いの相手って、美咲さんなんじゃないですかね?」
「ん?」
俊ちゃんの問いかけに私は曖昧な返答をした。
「名前で呼んでるの美咲さんだけなんでしょ、きっと。」
私だけかは知らないけれど、確かに私は最初に出会った日、諒司に名前で呼ぶように言われた。
今日かたくなに名前で呼ばれることをを拒む諒司を見て、私は正直嬉しかったんだ。
とはいえ、マイちゃんの前でまで、あんな言い方をして欲しかったわけではないけれど。
「どうかなぁ。」
「でも、なんかさっきの感じ、真っ直ぐな感じでしたね!」
「何が真っ直ぐよ。
諒司は想像してるよりも遥かにえげつない男だよ。」
私は笑った。
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