【最終章】

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「この二人が分かるか?」 若い刑事が、1枚の写真を懐から出し見せた。 その写真には、走馬灯の中の結子の葬式の時に見た、あの赤ん坊を連れた姉弟が写っていた。 あの2人も実在していたのかーー。彼らは何だ? 若い刑事が言う。 「覚えているか? 父方に引き取られた、お前の姉と弟だ」 僕は初めて表情に出し、ハッとする。 本当に僅かな反応だったが、刑事達はその様子を見逃さなかった。 若い刑事は続けた。 「お前は幼い頃、一時2人と一緒に暮らしていた事があるな? お前の事を姉弟はずっと探していたそうだ。お前が薬を飲んで意識不明の間に、一度此処へ来たが、その時はお前の事が分からなかった。まあ、こんな姿じゃ分かりようも無いか。先生がお前の体を検査した時に、性転換した跡を発見した。それで、中原タケシの姉弟にDNAのサンプルを提供して貰い、お前のDNAと姉弟のDNAを照合してみたんだよ。それでお前が中原タケシだとやっと分かった」 「そうですか」 僕はまだハッキリしない頭で答えた。 そうか、幼い頃に遊んだあの姉弟は、結子の、いやタケシのーー、つまり僕の姉弟だったのか。 「ところで、当時父親が行方不明になった時に、この2人は父親は祖母と暮らすお前に会いに行くと言って、それっきり帰らなかったと証言している。当時は、子育てに疲れた父親が子供を捨てただけと思われていたが。ーーお前、父親も殺したのか?」 「そうです。僕が殺しました。当時住んでいた所の近くの神社に埋まっています。穴を掘って縁の下に埋めてーー」 と言い掛けて、僕は言葉を止めた。まるで曇っていた窓ガラスをさっと拭うように、記憶が晴れて行く。 ーー違う。それは走馬灯の世界の記憶だ。 僕は思い出しながら話す。 「ーーいや、神社の隅に古井戸が在ったんだ。もうずっと使われていない井戸で、地面に穴だけ開いてた。その上に、人が落ちないようにトタンが敷いてあったんだ。それを退かして殺した結子の父親を投げ入れて、上から土を沢山落としたんだ。僕はその古井戸が近々埋められるのを分かっていたからね。あれはとても寒い冬の日の、夕暮れ時だった。凍える手を摩すりながら、硬い地面を爪で掻き、真っ黒い土を集めて、井戸の底に一生懸命に落としたのを今でも覚えている」 「結子とは、誰だ? お前の事か?」
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